松尾芭蕉 おくの細道(長谷川櫂)100分de名著
芭蕉は元禄7年に亡くなるが、
古池の句から8年、
みちのくの旅から5年後のことであった。
その8年は芭蕉にとって豊饒な歳月だった。

伝 芭蕉翁 椿杖 大津義仲寺2015.7撮影
朝日俳壇選者、きごさい運営者である俳人による「おくの細道」解説。
芭蕉が俳諧に新たな世界「かるみ」をもたらした旅を解説する。
芭蕉は「古池や蛙飛び込む水の音」で俳句に「心の世界」を見出し、
その実践として、歌枕の宝庫である「みちのく」へ旅立つ。
歌枕の地は、歌人が想像で作った地であり、実在の地ではない。
そこを訪ねようというのだから「心の世界」への旅である。
「おくの細道」の構成は「歌仙」をベースにしていて、
初折の表裏、名残の表裏の4部構成になっている。
歌仙は1巻の中で四季を詠み、月、花、恋を詠む。
芭蕉は歌仙の名手でもあった。
おくの細道の構成は
第1部 江戸~白河 旅の禊
第2部 白河~尿前 歌枕を訪ねる
第3部 尿前~市振 宇宙の旅
第4部 市振~大垣 人間界の旅
各部のつなぎには、旅の困難な場所が配置され区切りをつける。
「歌枕の旅」では行く先々で芭蕉は失望する。
「時移り、代変じて、その跡たしかならぬ」というように
実際は歌枕の地は実在すらしなく、歌枕の廃墟の旅であった。
しかし、松島だけは別で、芭蕉は感激したが、奥の細道には句は残さないでいた。
藤原実方の墓に参らないのと同じように、作者の想像にゆだねる形をとった。
(藤原実方 天皇の檄に触れ「みちのくの歌枕見てまいれ」と言われて左遷された。)
第2部では、歌枕の廃墟を訪ね「流行」を見、
第3部では、月山や佐渡の夜空を見て宇宙の「不易」を体験する。
無常迅速と見える宇宙が実は永久不変であるとわかったのだった。
では、絶えず流れ移ろう世界にどう生きていけばいいか。
この問いに対する答えが「かるみ」であった。
第4部の冒頭でこの世の業を背負った「遊女」を登場させ、
浮世の旅を象徴する幕開けとした。
その後、多くの「別れ」を経て、
こうした別れの悲しみや苦しみに満ちた世界をどのように生きていけばいいか、
芭蕉がたどり着いた答えが「かるみ」であった。
人々が出会いと別れを繰り返しながら(流行)、
その実は何も変わらないのであれば(不易)
これらに一喜一憂することなく、不易に立って流行を楽しみながら、
軽々と生きていきたい(かるみ)という芭蕉の願いであった。
(生き方や心を抜きにして、言葉だけ軽くしようというのは、軽薄にすぎない。)

NHK「100分de名著」ブックス 松尾芭蕉 おくのほそ道 - 長谷川 櫂
古池の句から8年、
みちのくの旅から5年後のことであった。
その8年は芭蕉にとって豊饒な歳月だった。
伝 芭蕉翁 椿杖 大津義仲寺2015.7撮影
朝日俳壇選者、きごさい運営者である俳人による「おくの細道」解説。
芭蕉が俳諧に新たな世界「かるみ」をもたらした旅を解説する。
芭蕉は「古池や蛙飛び込む水の音」で俳句に「心の世界」を見出し、
その実践として、歌枕の宝庫である「みちのく」へ旅立つ。
歌枕の地は、歌人が想像で作った地であり、実在の地ではない。
そこを訪ねようというのだから「心の世界」への旅である。
「おくの細道」の構成は「歌仙」をベースにしていて、
初折の表裏、名残の表裏の4部構成になっている。
歌仙は1巻の中で四季を詠み、月、花、恋を詠む。
芭蕉は歌仙の名手でもあった。
おくの細道の構成は
第1部 江戸~白河 旅の禊
第2部 白河~尿前 歌枕を訪ねる
第3部 尿前~市振 宇宙の旅
第4部 市振~大垣 人間界の旅
各部のつなぎには、旅の困難な場所が配置され区切りをつける。
「歌枕の旅」では行く先々で芭蕉は失望する。
「時移り、代変じて、その跡たしかならぬ」というように
実際は歌枕の地は実在すらしなく、歌枕の廃墟の旅であった。
しかし、松島だけは別で、芭蕉は感激したが、奥の細道には句は残さないでいた。
藤原実方の墓に参らないのと同じように、作者の想像にゆだねる形をとった。
(藤原実方 天皇の檄に触れ「みちのくの歌枕見てまいれ」と言われて左遷された。)
第2部では、歌枕の廃墟を訪ね「流行」を見、
第3部では、月山や佐渡の夜空を見て宇宙の「不易」を体験する。
無常迅速と見える宇宙が実は永久不変であるとわかったのだった。
では、絶えず流れ移ろう世界にどう生きていけばいいか。
この問いに対する答えが「かるみ」であった。
第4部の冒頭でこの世の業を背負った「遊女」を登場させ、
浮世の旅を象徴する幕開けとした。
その後、多くの「別れ」を経て、
こうした別れの悲しみや苦しみに満ちた世界をどのように生きていけばいいか、
芭蕉がたどり着いた答えが「かるみ」であった。
人々が出会いと別れを繰り返しながら(流行)、
その実は何も変わらないのであれば(不易)
これらに一喜一憂することなく、不易に立って流行を楽しみながら、
軽々と生きていきたい(かるみ)という芭蕉の願いであった。
(生き方や心を抜きにして、言葉だけ軽くしようというのは、軽薄にすぎない。)

NHK「100分de名著」ブックス 松尾芭蕉 おくのほそ道 - 長谷川 櫂
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