チョンキンマンションのボスは知っている(小川さやか)

香港で活動するタンザニア交易人たちの日常と、彼らのビジネスを支える相互扶助組織のようなものをレポートしている。
筆者は文化人類学者であり、実際に彼らが根城とするチョンキンマンションに長期で暮らしながら観察したというのもすごいと思う。

タンザニア交易人たちは、急成長する中国の商品を、タンザニアにコンテナで送り込み利益を得ている。
その主な品目は、中古車、携帯(主に中古)、服飾などである。
あるいは、アフリカからやってくる交易人と中国の商人をつないで利ザヤを得ている。

タンザニアからは宝石の原石を中国の宝石商に売りつけるようなことや、
なかにはセックスワーカーであったり麻薬などにも関係している場合もある。


彼らの商売のツールは一般のSNSであり、SNSのグループ内でやり取りされる情報が重要な位置を占めている。
情報やオークションだけでなく、資金の移動や調達についても、SNSのグループが活用されている。

信用の担保は、メルカリやヤフオクなどのように、運営者がいて担保するのでなく、グループに参加する相互の緩い関係から成り立っている。
ネットワーク内の参加者が、「ついで」や「気軽な助け合い」で相互扶助をして、国境を超えるセフティネット(TRASTと呼ばれている)を構築している。

たとえば、行き来するコンテナの隙間を利用して、小間物の商品を詰め込んで運賃無料で貿易したり、
アフリカからやってくる慣れない商人を香港の中国人に騙されないように案内し、信用を担保してマージンを得ている。

彼らの方法は、自身の要望に合致する機会を持つ他者が応答する機会をただひたすらに待ち続けるのであり、計画を練ったり根回しをするために忙しくはしない。大海原に釣り糸を垂らし、引っかかった魚でどんな料理をするか決めるのに似ている。


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ここで、興味あるのは、生産者と消費者という今までの概念でなく、消費者は自ら生産者でもあるという、いわゆるシェアリング経済である。

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社会関係資本の蓄積は、市場資本の蓄積に劣らぬほど尊ばれる。物質的な豊かさより、コミュニティへの愛着や従来の枠を超えた意義を探すことによって、人生の価値が決まるようになる。

ソーシャルネットワークでは、私があなたを助ければ、あなたが私を助けるといった単純さではなく、誰かが私を助けてくれるというものだ。それは、狩猟社会における獲物の分配に似ているが、いくぶん冷淡なものである。

シェアリング社会は、誰かに負い目と威信を与えないようにする細やかな実践と、きちんとできないものを排除することで経済的に成り立つ。


資本主義経済に対抗する地点に、分配経済があるのでなく、分配経済が潜在的に持っている負の側面を資本主義経済によって動かしていく仕組みが隠されている。


評判とレーティングは責任感を強め、他人によく見せたいという気にさせるが、レーティングに頼りすぎるとデジタル煉獄に陥る。


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人生は旅だ。いつかは自らの人生を穏やかに受け入れる終着駅があるのあろうか。
日々の営みの中に実現すべき楽しみが埋め込まれていれば、一生を旅したまま終えても構わないのだ。



チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学 - 小川 さやか
チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学 - 小川 さやか

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